3D Time-of-Flightにおけるアーティファクトとは?その原因と回避方法
Time-of-Flight(ToF)は、カメラから照射された光パルスが対象物で反射して戻ってくるまでの時間を測定することで距離を算出するアクティブ方式の3Dセンシング技術です。光速と飛行時間が分かれば、光が移動した距離を計算でき、それによって対象物までの距離を求めることができます。
ToFは他の3Dセンシング技術と比較して、多くの利点があります。低照度環境でも安定して動作し、テクスチャの少ない環境にも対応できるほか、距離画像を生成するための演算負荷が比較的小さいことが特徴です。また、遅延が非常に小さいため、リアルタイムでの判断が求められるアプリケーションにも適しています。 一方で、ToFには特有のアーティファクト(測定誤差要因)が存在し、その影響を低減または回避するためには適切な対策が必要です。

モーションアーティファクト (motion artifact)
ToFシステムでは、対象物までの距離を算出するために複数の位相画像(フェーズ)が必要です。一般的には最低2枚、周囲光補正を行う場合は3枚、場合によっては4枚以上の画像が使用されます。位相画像を取得するセンサーが一度に1つの位相しか取得できず、かつ撮影対象が動いている場合、各位相画像において対象物の位置が一致しなくなります。その結果、複数の位相画像を合成して距離画像を生成した際にモーションアーティファクトが発生します。これにより、対象物の形状が歪んで見えたり、実際とは異なる距離に表示されたりする可能性があります。また、HDR(ハイダイナミックレンジ)撮影のために複数回の露光を行う場合にも、同様の現象が発生する可能性があります。この課題に対しては、マルチタップセンサー(理想的にはアルゴリズムで必要となる位相数と同数のタップを備えたセンサー)と、非破壊読み出し方式のHDR技術を組み合わせることで対応できます。
エイリアシングアーティファクト (aliasing artifact)
このアーティファクトは、光の飛行時間が光源の発光周期よりも長くなった場合に発生します。センサーは別の変調サイクルからの光を受光する可能性がありますが、その光がどの周期に属するかを識別できません。その結果、「X+発光周期に対応する距離の整数倍」の位置にある物体が、実際には異なる距離に存在していても同じ距離「X」として認識されることがあります。これにより、3D深度マップや点群データに誤差が生じます。発光周期を長くすると曖昧性が生じる距離範囲を広げることができますが、その一方で測定精度は低下します。そのため、両者のバランスを取る必要があります。マルチ周波数方式はエイリアシング対策として有効ですが、モーションアーティファクトを悪化させる可能性があります。一方で、デューティサイクルを柔軟に設定できるセンサーを使用すれば、最大測定距離と曖昧性解消性能を分離できるため、この課題への対応が可能になります。
干渉アーティファクト (interferences artifact)
干渉アーティファクトは、複数のToFカメラが同時に動作している環境で発生します。あるシステムから照射された光を別のシステムが受光してしまうことで、位相情報が乱され、距離計算に誤差が生じる可能性があります。一般的な対策としては時分割多重化(Time Multiplexing)が用いられますが、この方法は実装が複雑であり、多くの場合、システム間の有線接続が必要になります。一方、複数システムの同時運用に対応した機能を備えるセンサーやシステムを採用することで、このアーティファクトの影響を低減できます。
3D Time-of-Flight技術は、高い精度とフレームレート、低遅延を兼ね備えていることから、ロボティクス、物流、外観検査、寸法測定などの産業用途で広く活用されるようになっています。さらに、その柔軟性により、複雑な環境においても幅広いアプリケーションへ適用できる点が、他の3Dセンシング技術との差別化要因となっています。あらゆる技術と同様に、ToFにもトレードオフが存在します。利点があれば、制約も存在します。しかし、ここで紹介したようなアーティファクトは特に注意すべき課題です。距離測定に誤りが生じると、自律移動ロボット(AMR)の衝突や、協働ロボット(コボット)による事故やけがにつながる可能性があるためです。
ToFシステムにおいては、イメージセンサーの性能が最終的なシステム性能に大きく影響します。例えば、ToF用途向けに設計されたTeledyne e2vのHydra3D+は、モーションアーティファクト、エイリアシングアーティファクト、干渉アーティファクトといった課題への対応を支援します。また、独自のHiRho技術により、屋外環境における性能向上にも貢献します。
作者:Yoann Lochardet、Teledyne Vision Solutions
※本文は『Electronics for Engineers』2026年2月号に初掲載されました。